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前述の通り、1970年代当時のザ・スティングに対する評価は決して良いとは言えなかった。それ故にセールスは不調だったと見え、当時のナイキとしては短命であったし、生産数はかなり少なかったようだ。その評価が一転したのは、1990年代にヴィンテージブームが沸き起こってからのことである。


ヴィンテージとして高く評価されるには、カラーリングが鮮烈であることと、生産数が少ないことが条件だったが、ザ・スティングはまさにその条件にピッタリのシューズだったと言えるだろう。その見つけにくさから市場価格は高騰。’70年代のマイナーシューズは、一躍メジャーモデルとなった。そして2003年、ようやく初めての復刻版が登場。ヴィンテージファンのみならず、多くの人の目にこのシューズがとまるようになり、復刻版は生産数が少なかったことから、プレミアム化することとなった。


今年発売されたスティングVNTGは、都合3回目の復刻となる。3回目ともなれば、さぞ完成度が上がっているだろうと思いきや、実際のところそうでもないのが不思議なところ。完成度の高さを売りにしてきたナイキのVNTGシリーズではあるが、今回の出来は正直残念と言わざるを得ない。

 
スティングはシューレース調整を楽にするDリングが初めて採用されたモデル。復刻版は当時日本だけで販売されたスティングを真似たのかDリングが少ない。


木型とパターンが違うので形状も異なるがそれ以上にアンクルパッドの書体の違いが目立つ。ラインナップの都合という社内的な事情もあるようだが……。
 

何がどう違うかは写真を見てもらえば一目瞭然だと思う。アウトソールの色が違う。アンクルパッドのNIKEロゴが違う。シューレースのDリングの数が違う。その他、細かい点を上げればキリが無い。Dリングの数が少ないのは、当時日本だけで発売されていたバージョンがそうだった。しかしそのバージョンを取り上げたにしては、他の部分のディテールが異なる。何を意図したのかよくわからないアレンジが、このシューズには加えられている。


VNTGシリーズは、従来の復刻版を超えたリアリティが特徴だった。シューズとしては画期的だったエイジング加工もその一端だが、それは正確な検証によって再現されたリアルなシューズに施されるからこそ生きるもの。そもそも再現度の低いシューズにエイジングを施したところで、ただの汚い靴にしかならないということに、このデザイナーは気付いていないようだ。




THE STINGはスティーヴ・ローランド・プリフォンテーンという、ナイキが最も大切にするアスリートのヒストリーに連なる、偉大なヘリテイジの一つに違いない。そういったシューズの再現を忠実に行わないのは、プロダクトに対する愛情が無いか、仕事に対する情熱が無いか、あるいはその両方なのだろう。そもそもミュージシャンの“STING”が有名になったからと言って、それに引きずられて容易にネーミングの“THE”を取ってしまうのはいかがなものか。STINGがモッズ映画に登場して有名になったのは、THE STINGの発売から何年も後のことなのだから。

 
今回の復刻ではアウトソールの色が変更に。品質管理やコストの都合かと思いきや、アッパーがブラウンの方はオリジナルと同じナチュラルなのが不思議。



こちらはオリジナルには無いカラーリング。’70年代的とは言い難いが、雰囲気の良い色合いだ。価格は2色とも¥12,600(問・Footcorner/03-3477-8221)
 

そんなわけで今回は色々と不平不満を書き連ねてみたけれど、同じ思いをしたヴィンテージファンはかなり多いに違いない。ただ一つ救いなのは、シューズの細かな違いというのは、履いているとほとんど目立たないということ。だから雰囲気だけを楽しむには充分。現存数が少なく、あっても未だに高額なTHE STINGだから、実際に履くならこの復刻版が絶対的にオススメ。独特の履き心地から’70年代の息吹を感じ取ることが出来るだろう。