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summit of Mt.FUJI

FEATURE

Mt.FUJI

特集|富士山 #3 頂上-下山編

TEXT+PHOTO :: TAKATOSHI AKUTAGAWA


富士山の頂上は、はっきり言ってしまうと、それほど特別な世界ではなかった。神社があって、宿があって、土産物屋があって、自動販売機があってという、よくある観光地とさほど変わらない風景が、そこでは見られる。もちろんその日常的な光景が、3700m以上の世界で見られることこそが、極めて非日常的なことであり、富士山の特質でもあるのだけれど、とにかく印象としては、日本一の高山に登ったという実感が薄れるくらい、普通の風景だった。

高山にいるという実感が乏しいもう一つの理由は、周囲に標高の高い山がほとんど存在しないからだろう。アルプスのような連峰の景色と異なり、富士山からは平野部がよく見える。しかし周囲に山が無いがために、風を遮るものがなく、特に秋冬は天候が崩れると凄まじい風が吹くという。冬の富士山では多くの人が風に飛ばされ、滑落し、命を落としている。ハイキング気分で登る人が多い、夏の穏やかな光景とは正反対の、富士山のもう一つの顔である。

vending machine

Coke
驚くべきことに、富士山の頂上では自動販売機が稼働している。無駄なようにも思えるけど、限られたエネルギーで効率良く保冷・保温するには、意外とこの方法が一番良いのかもしれない。ただし価格はそれなり。¥500を安いとみるか、高いとみるかは人それぞれだと思うけど、背に腹はかえられないのか、よく売れていた。夏でも夜中は冬並みに冷え込むせいか、暖かい飲み物の割合が高い。

僕がいた場所は、一般に富士山頂とされている場所ではあるが、厳密に言えば一番高い場所ではない。富士山の最高地点は、以前、富士山測候所として稼働していた建物がある辺りであり、僕がいた地点とは噴火口を挟んで、丁度反対側に位置していた。噴火口は、八合目あたりまで落ち込んでいる巨大な穴なので、最高地点に行くためには、噴火口の周囲をぐるっと廻る、”お鉢廻り”と呼ばれるハイクをしなければならない。

しかし僕は事前にそのことを知らなかったため、今回はお鉢廻りをすることが出来なかった。昼食を摂って、その上お鉢廻りまでしていたら、下山中に日没を迎えてしまうことになる。それに正直なところ、登りで想像以上に体力を消費してしまったので、ゆっくり休みたいと思っていた。そこで売店の裏手にある、ちょっとひらけた場所に腰を下ろし、富士山頂のランチタイムを楽しむことにした。

ランチタイムと言っても、たいしたものがあるわけじゃない。今回の食事は、我が家では常備食となっている、マルタイの棒ラーメン。高度障害で食欲が無い場合に備えて、ウィダーinゼリーも持参したけれど、幸い食欲は十分にあったので、両方食す。ストーブとコッヘルは、プリムスが出しているイータパワーという最新式のセットで、速攻で湯が沸くのが特徴なのだが、意外と風が強く何度か火が消えてしまった。やはり夏とはいえど、山頂ではほとんど休むことなく風が吹いている。そしてストーブで調理をしているのは僕一人。別に火器の使用が禁じられているわけではないが、富士山で調理をする人はほとんどいないから、視線がちょっと痛い。

marutai noodle
山の上で食べるインスタントラーメンは、何故かすごく旨い。でも持って上がった飲料水がギリギリになってしまったので、スープは少なめで。乾燥わけぎを持って行こうかとも思ったが、食後にコーヒー用の湯を沸かすことを思うと、掃除が大変そうなのでやめた。それでもマルタイラーメンの入っていたコッヘルで作ったコーヒーは、微妙にゴマ油風味だった。作る順番が逆なら何てことはないのだが、山の食事はその辺のやりくりが難しい。

ラーメンをすすりながら、あたりを観察していると、外人がかなり多いことに気付く。ヨーロッパからと思われる白人のグループは、大抵少人数で軽装。Tシャツ&短パンで、PETボトルを片手に身軽に上がってくる。反対に中国人や韓国人は、ツアーだったり大人数のグループが多く、しかもみんなザックを背負っている。それ以外にも中東からと思われる一団、黒人のグループなど、様々な人種の人たちをみかけた。

登りの途中で休憩した山小屋では、従業員の人が白人のカップルにカタコト英語で話しかけていたが、どうやら英語圏の人ではないらしく、さっぱり通じていなかった。僕が登った時に限ってそうだったのかもしれないが、アメリカ人らしいグループは最後まで見かけることがなく、これもドル安のせいかなどと考えてみる。やはり一番強いのは中国人。渋谷でも、原宿でも、青山でも、富士山でも、中国人。そんな中国に、円借款とはいえ日本はODAを行う必要が本当にあるのか?と、これまた考える。

volcano
富士山の噴火口は底なしに深く、およそ八合目のあたりまで、つまり500mくらいの深さがあるらしい。斜面には万年雪が残っている。写真を撮った場所から、火口を挟んで丁度反対側に、富士山測候所跡があり、その場所が富士山の最高地点。火口を一周するお鉢廻りをするには、2時間程度かかるようだ。

富士山の頂上では、ドコモの携帯なら通信ができる。といってもあまり安定はしておらず、通話できたと思ってもすぐ切れてしまったり、メールも送れたり送れなかったり。苦労しながら関係各所に登頂の報告をし、午後3時過ぎまでゆっくりしてから、下山準備を始めた。周囲の人影はもうまばら。いくつかの若者グループに写真撮影を頼まれ、交代に僕の姿も撮ってもらう。さあ、下りよう。

富士登山で一番大変なのは、下りだという人が多い。下りの登山道は本当によく整備されていて、ブルドーザーの通り道も兼ねているので、フラットな砂利道がつづら折りに続いている。しかし傾斜は決して緩くないため、足への負担は相当大きく、しかも砂利に足もとをとられて、すごく歩きづらい。そういう道が、永遠に続くのではないかと思うくらい、長く続くのである。

down1

大小の石ころが転がる砂利道が、延々と続く。歩きはじめの部分は斜度が緩く、比較的歩きやすかったが、徐々に傾斜がきつくなっていく。歩く距離が長いわりには高度が下がらず、うんざりするほど歩きづらい道を歩かされる。トレッキングポールが有ると無しでは、大違いだ。

ここでトレッキングポールが、とても役に立った。逆に何も持たない人は、大変な苦労をしていて、砂利が多く堆積した地帯では、ほとんどの人が転倒してしまっていた。疲れた足で砂利に足もとをとられると、簡単にバランスを崩してしまうのだ。土産物屋で買ったステッキや、長い杖を持った人もいたが、彼らも両手フリーの人よりは、数段有利のように見えた。

頂上でカメラを渡しあい、一緒に下山を始めた若者グループは、つづら折りの頂点を3?4回通過するうちに、いなくなってしまった。最初は元気が良かったが、何度か転倒したりして、すっかり疲れてしまった様子。僕もトレッキングポールが無かったら、同じようになっていただろう。

下り坂がつらいのは、足もとが悪いせいだけじゃない。景色もほとんど変わらず、山小屋や売店も無い。気分的に、とても退屈なのだ。頭の中では色々なことを考えるけれど、疲れているのと足もとのバランスに気を使うせいで、あまり考えはまとまらない。ただただ、退屈で疲れる下り道を、進んでゆく。

下山を開始して1時間ほどたったころ、足の指が擦れて少し痛くなってきた。ナイキのシューズの場合、Dという規格の幅が基本になっているが、僕はEもしくはEEという、より幅広の規格がフィットする足型。そのため、ナイキのシューズで丁度良いサイズを選ぶと、前後方向、特につま先にゆとりが出来る。このゆとりは、平地を歩いている分には、ほとんど問題とならないが、下り坂となると話は別。ゆとりのある方へと足がずれてしまい、幅が窮屈になった部分で靴ズレが起きてしまう。

このような傾向は、フィット感の低いシューズほど顕著に見られるが、今回履いたタラックの場合は、フィット感がかなり良く、擦れるといってもごく僅かなもの。シューレースをきつく締め、足がなるべく動かないようにすることで、ある程度解決した。

sign
下江戸屋分岐には、直感的にわかりづらい標識が立っている。吉田ルートを示す黄色い帯は、吉田口方面の矢印の下に、須走ルートを示す赤い帯は、須走口方面の矢印の下に、それぞれ配置すれば間違いは防げるはずだが……。しかもここから吉田口方面に抜けるには、正規の登山道には見えないような、細い通路のようなところを歩く必要があるため、余計にわかりにくくなっている。間違って須走口に下りてしまうと、吉田口までタクシーで戻るのに、2万円くらいかかるのだとか。

八合目まで下りてきたところで、下江戸屋分岐という地点にさしかかる。頂上からここまでは、吉田ルートも須走ルートも同じ道なのだが、ここで二つが分かれる。しかし標識や道がわかりにくいため、吉田口に下るはずの多くの人が、間違って須走口へと下りてしまうという。僕は事前にこのことを知っていたので、間違えずに下りることができたけれど、確かにわかりづらい。実際、吉田口に下りたあと、携帯を片手に軽くパニックになっている人がいて、やりとりを聞いていると、仲間か家族が須走口に下りてしまったらしかった。それほどわかりにくい標識が、何故そのままになっているのかわからないが、恐らくはそれは下山道だからだろう。山はやはり”登る”ところであって、登ったあとのことには、みんな無関心なんだと思う。だから標識もそのままだし、見る人も真剣に見ない。富士山の下山道には、実は多くのトラップが隠されているというわけだ。

夕暮れを迎え、間もなく太陽が没しようというころ、僕はようやく五合目付近まで下りてきた。所要時間は丁度3時間。ほとんど休みなく歩いてきて、足はかなり疲れていたが、それでもトレッキングポールのお陰で、想像していたほどではなかったように思う。特に階段状になった部分では、ポールに体をあずけることで足にかかる重力を減らせるので、膝が痛くなるようなこともなかった。やはり富士山では、僕らのように登山をあまりしない人間こそ、トレッキングポールが必携だと感じた。

gaiter
一日歩いたあとのシューズとゲイターは、それが朝まで新品だったとは思えないほど汚れていた。日頃はファッションの一部となっていることが多いスニーカーだが、やはり機能を備えた道具であるということを再確認する。次はどんなシューズを履いて登ろうか。一度装備を身軽にして、トレランシューズを履いて登ってみたいとも思う。

帰りのバスを待つ間に、日は完全に没し、あたりは漆黒に包まれた。暗闇の中を走る満員のバスの中では、ほとんどの人が疲れ果て、居眠りしている。でも僕は、この特別な体験を思いだしながら、少し興奮していた。もっと登りたい。もっと違う富士山を見てみたい。満点の夜空を見上げながら登って、ご来光も見てみたい。

山小屋で話しかけてきた初老のおじさんは、もう何十回も来ていると言っていた。きっと何度登っても、違った富士を楽しめるのだろう。僕は自分の足で登ってみて、富士山は名実ともに日本一の山だと思った。日本に住んでいながら、そんな富士山を登らずにいるのは、とてももったいないことだ。だから僕はまた来年、違った富士山を見に出かけようと思う。その時はどんな装備で行こう?どんなシューズを履こう?時間は十分にある。ゆっくり悩んで、じっくり楽しもうと思っている。

Fin.


material, material, material…
crazycreek 快適なリラックスタイムを送るため、クレイジークリークのヘクサライトという折りたたみチェアを持って行った。登りの途中でも、長めの休みをとる際にはこのチェアに座って休んだので、すごく快適だった。家で座椅子としても使える、おすすめのアイテム。
登山者のストーブでは定番となりつつある、Jetboilという製品に対抗して作られた、プリムスのEtaPower。専用コッヘルの底が特殊な構造になっており、ヒートロスが少ないため、瞬時に湯が沸く。しかし何故か海外のみでの展開で、日本ではまだ発売されていない。
foods インスタントラーメンは山の食事の定番だけど、中でもマルタイの棒ラーメンは収納しやすくて、山向きだと思う。コーヒーはスターバックスのインスタントを持って行きたかったが、ストックを切らしていたのでブレンディになってしまった。インスタントの方がゴミも少なくていいんだけど。
camp 下山後は西湖のキャンプ場にいた友達と合流して一泊。暑い時期だったので、MSRのジングというタープの下に、同じくMSRのトレッカーインサートを吊るして設営。メッシュを通り抜ける風が心地よかった。富士周辺には気持ちのいいキャンプ場がたくさんあるので、キャンプとセットで富士登山を楽しむのはアリだと思う。

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