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FEATURE

Mt.FUJI

特集|富士山 #1 マテリアル準備編

TEXT+PHOTO :: TAKATOSHI AKUTAGAWA


ここ数年、メディアを中心に様々なメーカーやショップが躍起になって盛り上げようとしている、富士登山ブーム。僕の周囲でも登った人、登ろうとしている人が、どんどん増えている。2009年は悪天候の日が多かったためか、2008年よりも登山者数が少なかったそうだが、2010年は恐らく過去最高を記録するのではないか。

登山やキャンプ、野外フェスといった、アウトドアアクティビティ全般が盛り上がる中で、富士登山はその選択肢の一つに過ぎないが、そこはやはり日本を代表する国内最高峰の山だ。アウトドアを趣味に持たない人でも、人生の経験の一つとして、一度は登っておきたいと思うのではないだろうか。とはいえ、なかなかキッカケを掴めず、いつかいつかと思ううち、なんとなく時は過ぎ……。僕はまさにそんな一人だった。

そんな僕が富士山に登る気になったのは、紛れもなくアウトドアブームのお陰。頻繁にキャンプに出かけるようになったり、友達からバックカントリースキーのお誘いを受けるうちに、自然と登山にも興味が湧くようになっていた。そういえば、富士山は一度も登ったことがない。日本人としては、やはり一度は富士に登るべきだと思うし、登山を始めるにしても、よくわからない難しいルートに挑戦するより、まず富士山を登ってみるのが良いのではないか。

装備に関しても、アウトドアグッズなら既に色々と持っているから、日帰りなら新たに道具を揃える必要もなさそうだ。よし今年はとりあえず富士山に登ってみよう。そう、思うようになった。

登山がまったくの未経験というわけではない。中学生の時は槍ケ岳に登頂したし、始めてのキャンプは立山の雷鳥沢キャンプ場だった。高校、大学とスキー部に所属し、アルペンスキーのレースをやっていたから、春夏の練習ではスキーを担いで何度も山道を登った。登山らしい登山をすることはほとんど無かったけれど、純粋に自分の足で山を登るという行為に関しては、それなりの経験を積んでいるつもりだ。

しかし僕がよく山に行っていた頃と今とでは、マテリアルに大きな差がある。もちろん当時からゴアテックスはあったし、より軽量な2レイヤーのシェルも出てきていたけれど、2.5レイヤーは無かった。止水ファスナーや、溶着シームや、クールマックスもなかった。

そういった最新のテクノロジーによる恩恵は、街を歩いていても授かることは出来るけれど、本来のフィールドである山に行った時、いったいどれだけの違いが現れるのだろう。そういった興味もまた、僕を山に向かわせる理由の一つとなった。

Red Fuji, Fine Wind Clear Morning :: Hokusai Katsushika

富士山に登ることを決めてから、どんな装備で行くべきか思案を始めた。この歳になっても、カタチから入る習性は一向に変わる気配がないから、困ったものだ。でも実際のところ、お気に入りの道具を、お気に入りの場所で使うというのは、アウトドアの一つの醍醐味だと思う。いやアウトドアだけでなく、スポーツ全般についても言えることだろう。実際、Nike Sports Research Lab.(オレゴンのナイキ本社にある研究機関)の研究でも、好みの色やカタチの道具を使うと、アスリートのパフォーマンスが上がるという結果が出ているそうだ。

何か新しいスポーツをしようと思ったら、まず本当に好きになれる道具を探すこと。これは結構重要なんじゃないかと思う。

実際に道具を揃える段になって、最初に買う必要があったのが実は靴だった。これは僕のことをよく知っている人なら、意外に思うかもしれない。確かに僕は数百足のクツを持っていて、そのうちの何十足かはアウトドア用シューズだ。その中に使えるものが1足も無いというのは、不自然な話であって、実は僕自身もそう思っていた。ところがクツの山を前にして、色々思案してみたけれど、どう考えても使えるシューズが無いのだ。

富士山という山は、標高は高いけれど、登山の難易度としては決して高くない。鎖場と呼ばれる、打ち付けられた鎖を頼りに渡る岩場も無いし、切り立った崖もない。もちろんザイルなんてまったく不要。毎年多くの家族連れが訪れる場所だけに、登山道は完全に整備されていて、逆に軽装でも登れてしまうが故に、登ってから行動不能になってニュースになるケースもある。

特に下りに関しては、緩やかな砂利道が延々と続く、ということがわかっていたので、いわゆる登山靴系ではなく、トレッキング用、あるいはハイキング用の、軽くて履き心地のいいシューズが相応しいだろうと思っていた。

’90年代に登場したナイキのACGシリーズには、まさにそういった用途に適したモデルが数多くあり、またデザイン的にも秀逸なものが多かった。僕も当時はACGのシューズをよく買い、よく履いた。それらの中でも特に気に入ったものは保管し、たまに思い出したように履いて楽しんでいた。

ところが昨年、シューズ置き場を整理していたら、とんでもないことが起きていることに気がついた。それらお気に入りのACGシューズの多くが、ソールの崩壊という悲劇に見舞われていたのだ。

衝撃吸収素材にポリウレタンを使ったシューズが、時間とともに加水分解してしまうことは、広く知られている。しかし僕はそれらのソールがポリウレタンだとは、まったく気付いていなかった。恐らくはニューバランスやナイキの初期エアに使われているような、純粋なポリウレタンとは違い、ラバーなどと混ぜて作られた素材なのだろう。見た目にはただの黒いラバーソールにしか見えなかったが、実際には履き心地を良くするために、ポリウレタンが混ぜられていたのだ。

びっくりして片っ端から同時期のシューズを取り出してみると、アレもダメ、コレもダメ。ACGだけじゃなく、バスケットシューズやランニングシューズも崩壊していた。ポリウレタンソールの寿命はメーカーでも10年と認識しているそうだけれど、実際10年超でこれほどまでに同時に寿命が来るとは。それらの中には、もったいなくてあまり履けなかったシューズもあって、こんなことになるならもっと履いておけば良かったなと、後悔先に立たずとはまさにこのこと。

2000年代になってからは、ACGのみならず、実はほとんどアウトドア系のシューズを買っていなかった。ACGのトレッキングブーツは何足か買ったけれど、もうちょっとスニーカーに近いものはと言うと、デザイン的に気に入るものがほとんど無かった。強いて言えば、ナイキのエアテラゴーテックという、トレイルランニング用のシューズは気に入って、何足か持っていたけれど、ローカットなのでちょっと不安だったのと、買ってから5年以上は経過しているので、仮に登山中にソールが壊れたりしたら最悪と考え、これもやめることになった。

そんなわけで、僕は新しいシューズを買うことにした。最新のトレッキングシューズが、どんな性能なのかを、試してみたい気持ちもある。街中で履くのではなく、山の中で履くとなれば、自然とモノを選ぶ目も変わるだろう。そういう新鮮な気持ちで売り場に出かけ、真っ先に目に留まったのが、”NIKE AIR ZOOM TALLAC”というシューズだった。

NIKE AIR ZOOM TALLAC

まず、エアズームタラックは、極めてナイキらしい、ACGらしいシューズだと思った。アウトドアシューズの世界というのは、極めて保守的で、新しいモノが出てきにくい。それは山というフィールドが、タイムなどの記録よりも、安全性を要求しているから、と言うことも出来るが、同時にアウトドア専業メーカーは資本力が無く、新しいカタチを開発する体力がないという側面もある。

実際アウトドアシューズのソールを見てみると、イタリアのビブラム社のソールが使われていることが多いけれど、これもビブラムじゃないとダメ、というわけではなく、既成のソールで良いものを選ぼうとすると、ビブラムくらいしかない、という事を意味している。どこのアウトドアメーカーも、ソールの型を自社で作ることが出来ないからだ。

その点ナイキのACGは、潤沢な開発資金に恵まれて、自由なデザインをすることが出来る。ズームタラックはまさに、そういった背景を活かして作られたシューズだと言えるだろう。

アッパーに巡らされた樹脂のサポートパーツは、熱可塑性ポリウレタン樹脂(Thermoplastic Polyurethane;TPU)で一体成型されている。一見スペクトラに見えるアッパー素材(恐らくスペクトラではない)に、サポートパーツを溶着することで、大幅な軽量化をするとともに、防水性も確保するという設計になっている。こういった構造は、一般消費者をマーケットに多く持ち、生産足数が多いナイキだからこそ、採用できるものであり、また各部の意匠に関しても、過去のACGプロダクトから引き継がれた、”ナイキらしさ”が多く見られ、実にナイキらしいプロダクトに仕上がっている。

TPU樹脂で一体成型された、蜘蛛の巣状のサポートパーツが、アッパー全体を包み込むように配置されている。中央にあるメインのサポートパーツは、ミッドソールの裏まで回り込んで安定性を高めるとともに、恐らく屈曲時の反発力も生み出しているだろう。全体に軽量化がはかられ、極めてライトウェイトなシューズに仕上がっている。

しかし見た目が気に入ったからといって、実際このシューズが足にフィットして、一日中山歩きが出来るのかというと、それは話が別だ。だから試着は慎重に行った。ナイキは毎シーズン、新しいプロダクトを数多く生み出す、魅力的なメーカーではあるが、反面開発スピードが速過ぎて、十分に熟成されないまま市場に出され、消えて行く商品も多い。これはナイキにおける、大会社病の一つだと僕は思うけれど、常にフレッシュであることは、ナイキのDNAみたいなものだから、そんな病も受け入れなければならないんだと、同時に思ってもいる。

試着してみた感じでは、極めて良さそうな感覚だった。ナイキは足幅(ウィズ)の設定がDが基本となっており、典型的な日本人足で、EEな僕には本来はちょっと狭いのだが、幅の合うサイズを選べば甲の高さもだいたい合い、つま先はちょっと余るけど運動に支障はない、という結果に落ち着くことが多い。タラックもUS9というサイズでほぼ丁度良く、特に圧迫を感じる部分もなく、包まれるような感覚を得ることが出来た。

ミッドカットシューズの場合は、履き口の形状が足に合わず、アキレス腱やくるぶしが擦れるということも多いけれど、どうやらそれも問題無さそうだ。一つ気になったのは、つま先が余っていることで、下り坂で安定しないのではないかということ。でもそれもトレッキングポールを持って行けば何とかなりそうだし、幅広だからといって、オリジナリティに欠ける国産シューズを履く気はさらさら無いので、これも問題なしということになった。

フットベッドは、よりスタビリティに優れた、社外品に交換することも考えたが、純正品を取り出して見てみると、五指球と踵の部分にソルボセインと思われる、衝撃吸収素材が貼付してあった。これを緩衝機能の無いものに変えてしまうと、きっとバランスが変わってしまうので、結局そのまま履くことに。緻密な作り込みから、開発者の思い入れが感じられて、嬉しくなる。

何千足か、何万足かわからないけれど、僕はとにかく人生の中で、たくさんのクツに足を通してきた。そうすると不思議なもので、大抵のシューズはちょっと履いただけで、自分に合うかどうかがわかるし、どういう性格を持っていて、どういう使い方が相応しいのかが、瞬時にわかるようになってきた。一つだけ試着で判断出来ないのは、ミッドソールの性能に左右される、足裏の疲労度なんだけれど、ナイキのエアシューズに関しては、自分に合うものが多く、ほとんど問題が無いので、今回も信用することにした。

シューズは決まった。ウェアやザック、ポールもある。あと一つ、モノの本というかWEBサイトによると、富士山の下りではゲイター(日本ではスパッツという呼び方が一般的)があった方いいらしいので、これは装着感の良さそうな、アウトドアリサーチのものを購入した。あとは登りに行くだけとなったが、実はその時まだ、富士登山のシーズンは始まっていなかった。富士山の登山道が解禁され、山小屋が営業を始めるまでには、もう少し時間が必要だった。

material, material, material…
下山時の砂利道対策として用意した、アウトドアリサーチのフレックス・テックス・ゲイター。スパンデックスの入ったストレッチ素材で出来ており、着用時の違和感が少ない。また前側がファスナーで全開出来るので、脱着が楽そうなのも気に入って、これを選んだ。
ザックは普段からよく使っている、ブラックダイアモンドのRPMを持って行った。軽くて、使いやすくて、カッコよくて、ついでにお値段も手頃な優等生。トレッキングポールも同じくブラックダイアモンドのもので、これは冬のバックカントリースキー用に購入してあった。
行動時には、最初マーモットの吸汗速乾タイプのTシャツを来ていたけれど、途中からナイキドライフィットの長袖に着替えた。この辺のTシャツは、どのメーカーのモノでも似たり寄ったりだと思う。ユニクロが出している超低価格のものも試してみたいと思いつつ、今年は買いそびれてしまった。
ソフトシェルっていったいどんな感じなんだろう?という興味本位で買った、アークテリクスのグリフォンジャケット。普段あまり着る機会がなかったけれど、山に持って行ったら確かに良かった。まあ高級なジャージみたいなもの。雨に備えてパタゴニアのハードシェルも一応持って行ったけれど、そちらは出番無しだった。

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