COLUMN
22年前に購入した、メイド イン アルゼンチン
New Balance M995
コラム|ニューバランスM995
TEXT+PHOTO :: TAKATOSHI AKUTAGAWA
先日、ある雑誌のインタビューを受けた際に、編集者の方から「最初に買ったスニーカーは何ですか?」と聞かれて、答えに窮してしまった。最初のスニーカー?いったい何だろう?すでに取材を済ませた、ほかの方は、よどみなく”My first sneaker”を挙げられたそうだが、僕には出来なかった。
たぶん、一番最初のスニーカーは、アサヒのクーガーか、世界長のパンサーだろう。僕が保育園に通っていた頃は、アシックスタイガーを真似たそれらの格安スニーカーを、スポーツ店ではなく靴屋で買い求めるのが普通だった。その頃はそういうクツを「ズック」と呼んでいて、とてもチープなつくりだったし、もしかしたらスニーカーにカテゴライズしちゃいけないのかもしれないけど、いずれにせよどんなモデルを買ったのかまでは、昔のことだしよく覚えていない。
小学生になった頃、日本にランニングブームと、ナイキブームがほぼ同時に上陸して、僕もナイキを履くようになった。そしてコンバースオールスター。アディダスはちょっと高くて買ってもらえず、中学生になってRUN DMCが流行り出してから、やっと買ってもらうことが出来た。ファッションが気になり出したのもその頃で、それからは自分の意思と小遣いで、アレコレ買うようになったっけ。
僕より上の世代の人だと、もしかするとスニーカーはもっと特別な存在で、ある時に意を決して、最初の一足を買うものだったのかもしれない。でも少なくとも僕の場合は、気付いた時には生活の中にスニーカーがあって、それを自然に履いたことから、ストーリーが始まっている。だから最初のスニーカーと言われても、何をもって最初なのかがハッキリしないと、答えようが無いのだ。
それでよーく考えてみた。今の自分。つまり、スニーカーにかなり人生を振り回されている、ボクのルーツはどこにあるのか?
今から約22年前。僕が高校生の時に買った、ニューバランスのM995は、その答えにかなり近いんじゃないかと思う。1985年にM1300が発売されたあと、しばらくしてから、日本の若者の間では、ニューバランスブームが起こった。それまで名前を聞いたこともなかった、そのブランドのスニーカーは、驚くほど履き心地が良く、驚くほど高級感があって、驚くほど値段が高かった。
当時のM1300の定価は3万9千円。友達の中には、そんな超高級スニーカーを買ってもらった、羨ましいヤツもいたけれど、僕にとっては憧れの存在でしかなかった。ところがある日、原宿のオッシュマンズに立ち寄ってみると、店頭のワゴンにM1300とよく似た、ニューバランスが積み上げられている。しかも値段は7800円!これは果たして本物のニューバランスなのか?と疑念を頂きつつも、すぐさまレジへと向かった。自分のジャストよりは、少し大きめのサイズしか残ってなかったけれど、そんなことはもう、どうでも良かった。
その時買ったM995を、僕はまだ持っている。10年くらい前に、ミッドソールが加水分解してしまい、もう履くことは出来ないけれど、かといって修理しようとするでもなく、捨てることも出来ない、そんなクツ。
M1300をはじめ、M995、M996、M576など、’80年代のニューバランスは、ほとんどがアメリカ製だったけれど、このM995はMade in アルゼンチン。当時日本に正規輸入されたものではなく、オッシュマンズが独自のルートで仕入れたものだそうだ。アメリカ製のM995とは、カラーなどがちょっと違うけれど、スペック的にはほとんど同じ。履き心地も、M1300と比較しちゃまずいけれど、僕にとっては最高に良かった。
僕はこのクツで、憧れのスニーカーを手に入れる喜びを知った。ニューバランスのNマークが反射板になっていて、夜道でも安全なことを知った。ビブラムソールはブーツだけじゃなく、スニーカーにもあることを知った。そして何より、スニーカーを大事に履くことを知った。
高校時代は、何足もスニーカーを持ってはいなかったから、とにかくこのM995をよく履いたし、その後もソールが壊れるまでは、たまに履いていた。その間約10年。恐らく僕の人生の中で、もっともよく履いたスニーカーだろう。そしてスニーカーの楽しみを、僕に教えてくれたのも、このクツなんだと思う。
今回の撮影のために持ち出してきたら、ミッドソールの一部が剥がれ落ちて、さらにひどい状態になってしまった。こうなるともうクツと呼ぶのは難しい。ただのゴミだ。でも僕はきっと、このゴミを捨てないんだろう。今までも捨てなかったから、こうして記事にすることが出来た。どんなモノでも、どんな人でも、役に立つことがある。捨てるのは簡単。でも失った過去は、2度と戻らない。そんなことを、残暑厳しい公園で撮影しながら、考えていた。
![]() 嗚呼、加水分解…… |
![]() Vibram Sole |
![]() Flashing reflectors |














