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COLUMN

サンプルシューズの魅力

NIKE ACG AIR MASSA

コラム|ナイキ ACG エアマッサ

TEXT+PHOTO :: TAKATOSHI AKUTAGAWA

エアマッサというシューズがある。1990年代初頭にデザインされ、かなり完成されたサンプルまで作られながら、結局発売されなかったモデルだ。いや、発売されなかったというのは、少々語弊があるかもしれない。確かにこのシューズを”元”にしたモデルは発売されたのだけど、最後に大幅な仕様変更が施され、見た目も名前も大きく変わってしまい、まったく別のシューズになっていた。だからエアマッサは幻なのである。

その生まれ変わったシューズというのは、エアエスケープ3というモデル。防水というのが一つのウリになっていて、アッパーは耐水性の高いスエードで、ソールとの境界はラバーコーティングされているのが特徴だった。確かに基本のデザインは共通。でもエアマッサは別に防水というわけじゃないし、何より素材と色がまったく違う。実は僕自身、最初は両者が同じモデルだとは、気づいていなかった。エスケープ3自体、とても良いシューズだと思ったし、確か1995年の発売だったと記憶しているけれど、発売されてすぐに2足買いしていた。そして雑誌の記事で見たエアマッサも発売されるのを待っていたのだが、ついにこちらは発売されなかった。そしてある時に気づいた。エスケープ3は、マッサの生まれ変わりだったのだと。

1980年代末から登場したACGモデルは、一つの特徴として美しいカラーリングがあげられた。決して派手ではないけれど、アースカラーをベースにしながら、ターコイズブルーやショッキングピンクを差し色に使った配色は、同時期のパタゴニアやデイナデザインと共通するセンスを感じさせてくれるもので、当時のアウトドアギアシーンのトレンドと言えるものだった。

しかしそのトレンドは、1990年代半ばに差し掛かったところで、ちょっとした変化を迎える。パタゴニアのレトロカーディガンも、デイナデザインのボムパックも、ヴィヴィッドな配色が見られなくなり、落ち着いた深い色合いが主流になっていったのだ。エアマッサからエアエスケープ3への仕様変更は、そうしたトレンドの変化を、ナイキのプロダクトマネージャーが敏感に察知したからではないかと思っている。そしてそれ以降、ACGラインでヴィヴィッドな色使いはまったく見られなくなってしまったのだ。

それから数年経ち、僕はたまたま通りかかった代々木公園のフリーマーケットで、このエアマッサに出会った。結構はきこまれたUSED品だったけれど、雑誌で見かけた時からずっと気になっていたシューズだ。買わない理由は何もなかった。だいたい僕の足は、ナイキのメンズサンプルのサイズである9インチがピッタリという、好都合なことになっている。大きい足、小さい足の人には申し訳ないけれど、サンプルサイズが履けるということは、大いなる楽しみの広がりがあるということだ。発売されなかったシューズを履くことも出来るし、まだ発売されていないシューズを履くことも出来る。メーカーとしては、機能に保証が出来ないサンプルシューズは、出来れば表に出したくないし、履いて欲しくもないというところだろうが、スニーカー好きとしてはそんなことはどうでもいいわけで、ヴィンテージやリミテッドとは違った希少性に引き寄せられるというわけだ。

もしあなたの足が9インチのシューズに合うサイズなら、是非サンプルシューズの世界ものぞいてみて欲しい。もしかしたら世界に一足の貴重なシューズに出会うことが出来るかもしれないし、お気に入りシューズの知られざるカラーバリエーションに出会うかもしれない。一般の市場には出回らないサンプル品も、インターネットオークションなら、キーワード検索ですぐに見つかるはず。宝探しの気分が味わえるのも、楽しみと言えるだろう。

正規で発売されたエアエスケープ3は、発売から15年が経ったところでソールが加水分解してしまい、まったく履けないものになってしまった。しかし皮肉なことに、ポリウレタンの防水コーティングが施されていないエアマッサは、まだまだ現役。長期耐久性という観点から見れば、闇へと葬り去られたはずのサンプルシューズに軍配が上がった。ついでに言うならば、コーティングで硬くなったソールを持つエスケープ3より、マッサの方が履き心地の点でもずいぶん良かった。

ところでこのエアマッサについては、GO OUT誌(三栄書房刊)でやっている連載記事「Lookin’ back on trail」の2011年6月号でも、違った角度で取り上げている。本記事はGO OUT記事のサイドストーリー的なものなので、機会があれば是非そちらも一読して頂きたい。


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